秘密の地図を描こう
21
早めに部屋に戻ってキラと話をしよう。そう考えて、足を速めようとしたときだ。
「バレル、いいか?」
背後から声がかけられる。
「何でしょうか、アイマン教官」
他の人間ならばともかく、同じ秘密を共有している彼では無視できない。そう考えながらレイは振り向いた。
「例のシステムのことで確認をな」
使い勝手はどうだ、と付け加えられたのは、間違いなく、キラとのシミュレーションのことだろう。
「かなり難易度は高いですが……以前よりはマシになったかと」
とりあえず、瞬殺はなくなった……とレイは言い返す。
「そっか。ならいいが……あぁ、レポート、忘れるなよ」
楽しみにしている人間がいるからな、と付け加えられて、レイは静かに首を縦に振ってみせる。
「……なんですか、そのシステムって」
そのときだ。背後から声が響いてくる。
「ホーク姉か」
反応を返したのはミゲルの方が先立った。
「あぁ。シミュレーターのシステムを変更しようと言うことになってな。こいつに協力を依頼しただけだ」
自分達ではさんざんやりまくったからな、と彼は何でもないことのように笑う。
「俺らの頃にもよくあった話だが……どうかしたのか?」
それが、と逆に彼は聞き返す。
「それって、ずるくありません?」
女性というのは、時としてとんでもないことを言い出すものだ。そう言いたくなるようなセリフを彼女は口にしてくれる。
「ずるい? 何が、だ?」
意味がわからない、とミゲルは言い返す。
「俺たちとしては、必要だからレイに任せた。逆に言えば、他の人間では満足できる結果が得られない、と判断した、と言うことでもある。それのどこがずるいんだ?」
自分達の判断が間違っているというのか、と彼はさらに付け加える。
「……私たちがレイに比べて、それほど劣っているとは、思えません」
だから、と彼女は言い返してくる。
「……ルナ!」
さすがにまずいと思ったのか。シンが慌てて彼女を制止しようとしている。
「あんただってそう思うでしょう?」
しかし、逆にルナマリアは彼を味方に引き込もうとした。
「二人とも、いい加減にしろ! これにはちゃんと理由がある」
このまま放っておくと厄介なことになる。そう判断をしてレイは口を挟んだ。
「何よ、その理由って」
ちゃんと納得できるものなのでしょうね、とルナマリアが視線を向けてきた。
「マニュアルをきちんと読んで理解して、さらに開発局の連中が満足できるレポートを提出できる人間、と言うことで選んだが?」
二人にも頼んでよかったのか? とミゲルは言う。
「もちろん、授業のレポートとは別に提出だぞ」
さらに彼はこう付け加える。その瞬間、シンだけではなくルナマリアの頬も引きつった。
「なら、今すぐにでも許可を出すが?」
にやり、と笑いながら彼は続ける。
「言っておくが、ニコルの講義で優をとってないと書き直しは必須だぞ」
さらに重ねられた言葉に二人の表情が完全にこわばった。
「と言うことで、明日からがんばってもらおうか」
端末にマニュアルを送っておく。きちんと読み込んでおけ、と彼は追い打ちをかけた。
「今晩は徹夜だな、二人とも」
自業自得だ、とレイは言う。
「……お前なぁ」
シンが恨めしそうな表情でにらみつけてる。
「あきらめろ。ルナを止めきれなかったお前が悪い」
この一言に、彼は思いきり肩を落とした。